EnoGG 髙橋 駿斗|絵画サブスク「絵を身近にしたい!」山形の若手起業家にインタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年11月に行われた取材時点のものです。

「アートで飯が食える世界を作る」若き起業家高橋氏がEnoGGで描くビジョン


「アートで飯は食えない」と言われて久しいですが、その現状を変えようと事業を通じて挑戦しているのが、EnoGG(えのぐ)株式会社の高橋駿斗氏です。

東北芸術工科大学出身で自身も芸術に通ずるバックグラウンドを持ちながら、黒子に徹し「アーティストと社会をつなぐプラットフォームを作りたい」と目を輝かせながら語る高橋氏。

同氏が事業を立ち上げた経緯やアーティストが「飯を食える」新しい生き方、アートが本来持っている価値などについて、創業手帳の大久保が迫ります。

髙橋駿斗(たかはし はやと) EnoGG株式会社 代表取締役

山形の東北芸術工科大学に入学。グラフィックデザイン学科に在学しながら
山形大学EDGE-NEXTに参加し、美大発起業としてEnoGG㈱設立。
アーティストマネージメントとして、空間アート作品のサブスクやイベント企画・アーティスト支援を行う一方、
[神社×アート×若手アーティスト]として、天井画制作など東北で展開中。
山形ビジネスプランコンテスト(アントレプレナー賞)受賞・地方新聞やメディアにも多数掲載。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「絵で食べていくのは厳しい」世界を変える

大久保:本日はアート領域で事業を展開されているEnoGG(えのぐ)の高橋さんにお越しいただきました。高橋さんはまだお若いですよね。

高橋:はい、まだ24歳です。

大久保:記事をご覧になる若い読者の方も勇気をもらえると思います。本日はよろしくお願いします。

高橋:よろしくお願いします。

大久保:早速ですが、起業された経緯について教えてください。

高橋:私が東北芸工大のグラフィックデザイン学科に在籍していた際に、絵を専攻している同級生にこう言われたんです。

「絵で食べていくのは厳しいんだよね」

世間的にもそう言われているとは思うのですが、私はこのとき、「なぜ絵で食べていくのが難しいんだろう」と、少し立ち止まって考えたんです。

大久保:確かに、世間的には「アートで生計が立てられないのは当然」と捉えられていますよね。

高橋:絵で食べていけるようになるには、従来のルートでいうと、大まかに4つあります。一つ目はコンペで賞を取ること。二つ目は画廊で作品を展示して認められること。三つ目は個展を開くこと。最後は、SNSで人気になること。

とはいえ、一番の王道は賞を取ること。権威ある賞を取ってようやくスタートラインで、そこからさらに頑張って生計が立てられるアーティストになれる方もいる、という世界です。

大久保:それでは、食べていけないのは当然ですよね。

高橋:そうなんです。同級生と話している際に、「芸術で飯を食えない現状を変えたい」と思い、EnoGGを創業しました。「従来の方法とは別に、社会にアーティストが必要とされる方法を作ることができるのではないか」、「アーティストと社会をつなぐプラットフォームを作れるのではないか」という仮説を抱いたからです。

大久保:「現状を変えたい」と思っている方は多くいそうですが、実際に行動に移す方はなかなかいないですよね。難しい領域に挑もうとするその行動力に感嘆します。

高橋:毎年数千人はいる美大・芸大の卒業生のほとんどが、アートとは直接関係のない職種に就職します。「誰かのために作品を作り続けたい」という志があるのに、生計が立てられないゆえ制作活動を続けられない卒業生が非常に多い。その現状を変えられたらな、と思います。

EnoGGの事業内容

大久保:EnoGGはどのような事業を展開しているのでしょうか。

高橋一言で言えば、「アーティストマネジメント会社」です。登録してもらっているアーティストと、アート作品を必要とするクライアントをマッチングさせるのが私たちの仕事です。

大久保:芸能事務所のようなイメージでしょうか。

高橋:おっしゃる通りです。具体的には3つの事業領域があります。

一つ目は、月額3,980円から利用できるアート(絵画)作品のサブスクリプション事業。登録しているアーティストの作品からクライアントに合った作品を選び、月額制でレンタルする事業です。二つ目は、アーティストのイベントやワークショップをプロデュースする事業。三つ目は、単発プロジェクトでアート作品を作成・修復する事業。最近では、東日本大震災で社殿が損傷した白幡神社の天井画修復を手掛けました。

大久保:幅広く展開していますね。サブスクリプション事業を利用しているのはどのようなクライアントなのでしょうか。

高橋病院のクライアントが多いですね。コロナ禍になるちょうど直前くらいまで、メンタルケアのためにアート作品を病院に展示することが流行していました。その流れで、病院のお客様が多いです。

大久保:確かに、病院には需要がありそうですね。

高橋:はい。病院にアーティスト自らが出向いて作品を持ち込むこともあるのですが、以前からアーティストが持ち込む作品には「死神」をモチーフにした作品など暗いものが多く、ミスマッチがありました。

両者の間にEnoGGが入り、病院が求める作品とアーティストをマッチングさせたことで、利用していただくクライアントが増えていった、という形です。

大久保:なるほど。サブスクリプションの料金プランは3,980円からとお伺いしましたが、詳しくお聞かせください。

高橋:一番安い「START」プランで月額3,980円です。EnoGGのスタッフがアート作品を展示したい現場を見て、現場のテイストや、クライアントの意向に沿ったアート作品を提案し、ご納得いただいた上で作品を貸し出しています。

さらに上のグレードの「REASONABLE」プランが6,980円、「PREMIUM」プランが9,980円です。この2つのプランでは受賞歴もあるアーティストの作品をレンタルできます。

大久保:安いですね。実際にそれらのアートを購入するとどのくらいの価格になりますか。

高橋:レンタル価格の10倍以上ですね。逆に言えば、サブスクリプションの金額は概ね購入価格の10分の1以下です。

大久保:アート作品を展示してみた後で、作品を気に入って購入したくなる方もいるかと思います。そのような場合に、レンタル作品を購入することもできるのでしょうか。

高橋:はい。作品を購入する場合はアーティストと直接話すこともできます。

大久保:それはいいですね。アーティストから直接作品の説明をしてもらえるわけですね。

高橋:そうですね。ほかのアートサブスクリプションサービスではないEnoGGならではのサービスです。アーティストもクライアントの意見を聞きたがっているので、Win-Winなサービスでもあります。

本来のアートの価値と社会との理想的な関係

大久保:「アートで食えない問題」の根底には、アートに対する「価値」の捉え方の問題があると思います。

高橋:おっしゃる通りです。従来の考え方では、画廊の方や評論家など、「アートのプロ」に評価された作品だけが「価値のあるもの」とされてきました。だからこそ、「価値がない」とされている作品は市場にも出回らず、結果としてアーティストも「食えない」状況に追い込まれていたのです。

大久保:しかし実際には、病院では受賞歴のないアートでも求められている。

高橋:そうなんです。作品の評価にも暗黙のヒエラルキーのようなものがあり、アート界隈では、日本画、洋画、版画の順に価値がある、と考えられています。もちろん、受賞歴があればなお価値が高いとされています。

しかし実態として、市場はアートをそのような基準で評価してはいません。東京のアート市場を見ると、ユーザーは受賞歴やアート界のヒエラルキーなどを考慮して作品を購入しているわけではないことがわかります。「色合いが好き」だとか、「展示したい空間のテイストにマッチしている」など、よりリアルな基準で評価された作品が購入されています。

大久保:アートの玄人とアート購入者の「価値」の捉え方にズレがあるということですね。

高橋:はい。ズレがあります。市場で売れるものであっても、アートのプロの視点からは「価値がない」とされている作品も多い。しかし私は、市場で売れる作品には「価値がある」と捉えます。アートが持つ「価値」の捉え方を従来よりも広く考えることで、「アートで飯が食える」人を増やしていこうと考えています。

もちろん、アートのプロに評価されていながら、市場で売れていない作品にも価値はあります。

大久保:市場で売れるアート作品に共通する傾向はありますか。

高橋「明るい」テイストの作品は売れますね。あとは季節に合った作品も売れます。最終的には直感で買っているユーザーも多いとは思いますが。

大久保:病院などでアート購入の需要があるのはわかりますが、市場ではどのような目的でアートが購入されているのでしょうか。

高橋:最近では、内装のリフォームをする際に、空間の価値を高めようと購入されるユーザーが多いと聞きます。

また、従来より「投資」的な意味でアートを購入される方も多かったですが、最近では純粋に「教養」目的で購入したり、子供の「教育」目的で購入される方も増えています。

ほかにも、経営者の方がインスピレーションやアイデアを得るために購入したり、出産のお祝い品として購入するなど、購入の目的はさまざまです。

大久保:アートの「市場価値」の話をしてきましたが、「鑑賞価値」についてはどうですか。

高橋:先日、私の知人のお父様がお亡くなりになりました。写真が大好きだった方だったのですが、入院する直前に写真をすべて捨ててしまったそうです。おそらくですが、自分が「死ぬ」現実を受け入れたくなく、現実を見せつけられる写真はもう見たくなかったのでしょう。

しかし、入院中に病棟にあった絵画作品はずっと見ていたそうです。絵画は妄想や夢のようなインスピレーションを表現したものなので、現実を忘れさせてくれたのでしょう。病院で展示されるアート作品の「鑑賞価値」は、たとえばそうしたところにあると思います。

EnoGGのこれまでとこれから

大久保:クライアントはどのように獲得してきたのですか。

高橋:紹介が多いですね。山形県という土地に根ざして事業を展開してきたので、土地柄、紹介で徐々にクライアントを増やしてきた形です。

大久保:なるほど。山形にはこだわりがあるのでしょうか。

高橋:私が卒業した東北芸工大があるので、必然的にそうなりました。EnoGGの在籍アーティストの多くも東北芸工大にゆかりがあります。

しかしこれからは山形にとどまらず、日本全国や世界にも展開していけたらな、と考えています。在籍アーティストも東京芸大や京都芸大など、東北芸工大以外の出身者を増やしていきたいですね。

ただ、「山形発」ということにはこれからもこだわりたいです。山形を「アートの聖地」にしたいという思いもあります。

大久保:全国展開や世界展開をする上で、見立てはあるのでしょうか。

高橋:全国展開についてはアイデアがあります。白幡神社の修復画プロジェクトを実施した際に、神社側・作品を修復したアーティスト側両方から好評いただきました。白幡神社同様に伝統的な作品を修復したい神社や寺院などはあると思うので、そうしたニーズを拾っていきたいです。

ほかにも「アートのプロの技術を持って作品を製作したい」という需要はあると思います。たとえば「日本画を製作して飾りたい」という日本料理屋さんなどから依頼を受けて作品を製作する、といったようなケースです。

以上のような「受託製作」のプロジェクトを増やしていく形での全国展開は考えています。

世界展開については、まだ考えてはいません。ゆくゆくはあると思っています。

大久保:最近はNFT(※)のようなものも出てきたので、デジタルアートという切り口で世界に展開するのもアリかもしれませんね。

高橋:それも考えています。今まではもっぱら原画のみを製作してきましたが、NFTや写真などにしてアートコレクターに販売する、という方向性もあると思います。

海外のアート市場規模は、日本のそれに比べて圧倒的に大きいので、狙っていきたいです。

大久保:EnoGGの課題はどういったところにあるのでしょうか。

高橋:売り上げですね。まずはもっと売り上げを立てたい。そのために、白幡神社のプロジェクトのような受託プロジェクトを増やしていきたいです。

サブスクリプションの導入店舗数も少ないので、そこも増やしたいです。

売り上げを上げるために、より知名度を増していきたいとも考えています。

大久保:本日は「アートで食える世界」を作るために奮闘しているEnoGGの高橋さんから、アートの現状や目指す世界について貴重なお話を伺えました。高橋さん、ありがとうございました。

(※)NFTとは…ブロックチェーン技術を用いて作られる偽造不可能なデータのこと。NFTを使えば、オリジナルのデータとコピーされたデータを判別できるため、オリジナルデータの著作権保護に利用できる。たとえば、デジタルアート作品のオリジナルをNFTにすれば、オリジナルの付加価値が担保される。NFT化されたデジタルアートの売買市場は、2021年現在盛り上がりを見せている。

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(取材協力: EnoGG株式会社 代表取締役 髙橋駿斗(たかはし はやと)
(編集: 創業手帳編集部)



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